ハンドリング・ブンドドについて
このブログは、ブンドドを前提としたオモチャレビューや、ブンドドの技術についての考察などを載せるためのブログです。
よろしくお願いします。
ハンドリング・ブンドドとはなにか
ハンドリング・ブンドドとは、なんなのか。
一言で言うなら、「オモチャを手に持って遊ぶこと」です。
原義としては「ブンドド」という単語自体に、上記の意味は含まれていますし、本来はブンドドという言葉の語義じたいがそのまま、オモチャを手に持って遊ぶことを意味していたのです。
そういう意味では、「ハンドリング・ブンドド」というのは、レトロニム以外のなにものでもありません。
(※レトロニムについては下記まとめを参照してください)
では、なぜこんなレトロニムが必要になってしまったのか。
歴史を振り返りはじめると長くなってしまうのでざっくり言いますが、現在の「ブンドド」は、「オモチャにポーズをとらせて写真を撮る」ぐらいの意味合いに変容しまっているからです。
もちろん、ネット辞書などには「オモチャを手に持って遊ぶ」という方で語義が掲載されてはおりますが、実際にSNSで「ブンドド」という単語で検索をかけてみると、ほとんどの方が「写真を撮る」の方へと傾いているのが見てとれます。
この遊び方を否定するつもりはないのですが、僕のように本来の「オモチャを手に持って遊ぶ」ことの楽しさについて語らいたい人間にとっては、検索結果が一色に塗り替えられてしまっている状況は手放しに歓迎できるものとは言えません。
そこで、ハンドリング・ブンドドです。
この言葉は決して僕の発明ではないのですが、声を挙げて提唱していきたい言葉ではあります。この言葉を使うことで、本来の「オモチャを手に持って遊ぶ」という語義が消失してしまうことを防ぎ、同時にわれわれのような大人げない連中が居場所を失わずに済むのです。
ハンドリング・ブンドド、推していきましょう。
ハンドリング・ブンドドの基本は、ソフビである
釣りの世界に、「釣りはフナに始まり、フナに終わる」という格言がありますね。
ぼくは釣りにはまったく疎いのですけど、フナ釣りというのは初心者向けの簡単さと、玄人向けの奥深さを備えているという意味らしいのです。そこで、フナ釣りから始めた初心者が、ありとあらゆる釣りに手を出した結果、フナへと戻ってくる。それを指すのが、この格言なのですね。
ブンドドにおいても、この「フナ」は存在します。
それが、ソフビです。
ソフビ、すなわちソフトビニール人形はブンドドの基本です。
誰もが子供のころ、ウルトラマンと怪獣のソフビを一度は手にしたことがあるでしょう。片方の手にウルトラマン、もう片方に怪獣を握りしめ、ウルトラマンの掛け声や怪獣の吠え声などを口ずさみつつ、ソフビ同士をぶつけ合う。それがブンドドの始めであるという方も多いのではないでしょうか。
ハンドリング・ブンドドはソフビに始まり、ソフビに終わると言ってもよい。
ソフビというものは、たいへんに奥深いものです。
まず、近年のアクションフィギュアの常識からは考えられないほど、可動ポイントが少ない。一般的なウルトラマンの可動を確認してみると、そのポイントはわずかに3カ所、右腕・左腕・腰でしかありません。怪獣なら、右腕・左腕・尻尾と、やはり3カ所でしょう。
しかしじっさいに手にとって遊んでみると、これが必要十分の可動数なのだという事実に気がつきます。
まず、ポーズに悩む必要がない。
アクションフィギュアの可動数は、少なくとも16カ所以上を超えることが多いですね。これらを手にしたとき、ぼくたちはついつい、可動させること自体を目的化してしまいます。なまじ人間に近い可動域を持っているがゆえに、両腕を前に出しただけではパンチを出す姿勢として説得力を持つことができず、ああでもないこうでもないと、かっこいいパンチのポーズを探り始めてしまいます。
その間、あわれなことに、敵役の人形は忘れ去られます。
ようやくポーズが完成すると、その美しいポーズに惚れ惚れとして、ついうっかり見とれてしまいます。手のひらは自然と机の上のスマホをたぐり寄せ、カメラアプリを起動し、パシャリパシャリとシャッターを切りはじめることでしょう。
そして苦労したポーズを崩すのに忍びないという気持ちが芽ばえ、ついつい棚の上にそのままのポーズで飾ってしまいます。
こうして、フィギュアは飾り物に堕してしまうのです。
それに比べて、ソフビ、です。
ソフビは、3カ所しか可動しません。精いっぱいポーズを決めてみせようとしたって、両腕を前に突き出す姿勢がせいぜいです。それだけでは、とうてい戦闘の構えには見えません。
それでいいのです。
なぜなら、ブンドドとは見立ての遊びなのですから。
両腕突き出しポーズを、勇ましいファイティングポーズに見立てる。
机の上を、人びとが逃げ惑う街に見立てる。
並べた消しゴムや積み上げた文庫本を、そそり立つ高層ビル群に見立てる。
そうやって、ウルトラマンと怪獣との戦いを頭のなかで再現していくのです。目に見えているものだけがすべてではありません。頭の中で、ウルトラマンと怪獣は原寸大に化け、じっさいの特撮と同じように全身を躍動させながら、熱い肉弾戦を繰り広げます。見えない光線を撃ち、想像上で怪獣を爆発させるのです。
これが、ブンドドの基本です。
想像力は、制限が厳しいときによけいに羽ばたきを強めます。
美麗なコンピュータグラフィクスで描かれたキャラクターよりも、ドット絵の勇者に感情移入してしまうのと同じです。ソフビはあらゆる想像力を受け止め、柔軟にあらゆるアクションをこなします。
彼らの肉体はちっともアクションしないがゆえに、無限のアクションを秘めているのです。
激しくぶつけ合ったって、壊れることはありません。ビニール製の肉体は、どんなに高くから投げ落とされても、風呂のなかに浸けられても、ものともしません。多少塗装が剥がれることがあったって、本質にはなんら影響しません。
オモチャのコンディションに気をつかった瞬間、想像力は一気に興ざめしてしまうものです。その点、あらゆる乱暴な扱いを受けても平然としているソフビには、オモチャを遊ぶという行為じたいに集中させる吸引力があります。
また、ソフトビニールという素材自体にも魅力があります。
ソフビ同士をぶつけたときの、独特の軽い音に耳を澄ましてみましょう。硬質な音の裏に、やわらかく衝撃を受け止めるビニールの存在がたしかに感じられます。
この音は、かつて4歳だったころに耳馴染んだものと同じ音です。ふたつのソフビを手に取ってぶつけているとき、あなたは全世界に愛され、包まれていたころの安心感へと立ち返ることができます。
想像力のリハビリにも、ソフビは向きます。
久しぶりにオモチャで遊んでみようと思った大人が、無邪気だったころの感覚を思い出すのは、なかなか難しいものです。たとえばアメコミ映画の精巧なアクションフィギュアを買ってきても、ヒーローとヴィランが敵対する理由を思いつくのに一苦労するでしょうし、彼らの台詞をうまく語ることも至難の業です。
ですが、ウルトラマンと怪獣なら、この心配はありません。
彼らが戦う理由など、明白です。怪獣が街を襲う、それをウルトラマンが止める。それだけでいい。また、ウルトラマンも怪獣も、言葉を語ることはありませんから、うまい台詞を思いつけなくても問題ありません(ただし、最近のウルトラマンはこの限りではありませんが)。
とにかく、両手に持ってぶつけるところから始めればいい。
なにも考えずにそうしているうちに、あなたは4歳のころの感覚をだんだんと取りもどしていることでしょう。
まずは、ごく基本的なウルトラマンと怪獣のソフビを買ってきてください。
お金の工面に悩む必要はありません。二つを買っても千円そこそこで済みます。あらゆるオモチャが値上げの憂き目に遭っている現代において、ウルトラマンシリーズのソフビだけは例外的な安値を保ちつづけています。
作法はありません。思う存分戦わせてやりましょう。