ブンドドを前提としたオモチャの話

ブンドドを前提としたオモチャ談義やオモチャレビューです。アメトイが好き。

ブンドドにおいては「並べる」ことが遊びの8割を占める論

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並べることこそ、ブンドドの本質である

「オモチャを手に持って遊ぶ」というハンドリングブンドドの定義からは外れますが、オモチャを一面に並べることもブンドドの原初的なあり方のひとつです。

子どもたちは、とかくオモチャを並べたがるものです。床を埋め尽くすように手持ちのオモチャを並べ、這いつくばるような姿勢で見入ります。このとき、彼らの頭のなかでは小さな世界が息づいているのです。

街や家や基地や戦場など、多くの人々(あるいは怪獣たちやロボットたち)の営みが、再現されています。オモチャを並べることにより、子どもは世界を手に取れるサイズまで縮小し、それらを理解しようとしているのです。

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オモチャを並べる行為の中には、癒やしが存在します。世界を手に収まる大きさで再現することで、不可解さに満ちた世界をほんのすこし、分かりやすい形に整えてやることができます。そしてその行為そのものが、箱庭療法のように、ある種の治療のような効果をもたらしてくれます。

精巧に作られたミニチュアのジオラマを鑑賞することでも、同じような効果は期待できますが、世界構築に主体的に関わるという行為のなかには、他に替えがたい喜びが含まれています。

ひとつのオモチャを置くとき、あなたはそのポーズや行動(いま、そのキャラクターがなにをしようとしているところなのか)を考える必要があります。そのとき、そのオモチャは客体から主体となり、あなたは彼の意識を追体験するのです。そうやって並べられたオモチャたちによって構成された世界に、真に不可解な他者は存在しません。一人ひとりのキャラクターたちに、あなたの意識が反映されているからです。また、そうして並べたいくつものオモチャを高い位置から眺めおろせば、いくつもの主体が寄り添って営みを作り上げているさまに、言いようのない親近感を抱くことができます。

そうして一個の世界を作り上げたとき、あなたはほんのすこし、世界というものが怖くなくなっているのです。

これが、オモチャを並べることによる癒やしの正体です。

 

とはいえ。

ぼくたちブンドド好きがオモチャを並べるのは、単にそれが楽しい遊びだからです。

その遊びを通して癒やされる事があったとしても、それは副次的なものでしかありません。

癒やしそれ自体は目的たりえません。

 

では、なぜオモチャを並べることは楽しいのか。

以下でその理由について考えてみましょう。

 

オモチャを並べることで、構図が見えてくる

オモチャを並べるとき、ただ漫然と並べる人はそう多くはありません。作業ではなく遊びとして並べているのですから、そこには必ず意図が介在します。

たとえばヒーローとヴィランを並べようとすれば、ヒーローたちとヴィランたちはそれぞれが向き合い、いまにも戦いが始まろうという構図を作るのが自然な帰結です。

たとえば基地に隊員たちを並べようとすれば、彼らが一様に焦っているのか、それとも弛緩した空気をただよわせているのか、選択する必要があるでしょう。それによって、いま基地がどのような状況にあるのかが分かります。隊員たちが焦っているなら、基地はおそらく敵軍の猛攻に晒されているのでしょうし、隊員たちが思い思いに時間を過ごしているなら、きっと平時なのでしょう。

このように、オモチャを並べはじめると、自然と大状況が見えてくるのです。

並べはじめる前に、「こういう設定にしよう」などと考えておく必要はありません。並べているうちに、なんとなく構図が浮き彫りになっていく。彼らの置かれた状況がだんだんと見えてきて、ひとつのストーリーが動きはじめるのを感じる。

ほんらいブンドドとは、このように遊びはじめられるものです。並べるという遊びのなかには、こうしたブンドドの発端を掴み出す力が含まれています。

 

オモチャを並べることで、壮大な風景を生み出せる

オモチャの数が増えれば増えるほど、並べたときの迫力は増してゆきます。

先日の記事でも触れましたが、ハンドリングブンドドにおいては、せいぜい4〜5体ていどのオモチャを同時に遊ぶのが限界です。一方、並べたかたちであれば、同時に遊べるオモチャの数はほぼ天井知らずとなります。

こうなると、大規模な戦争シーンや、同時並行でさまざまな場面を進行させることが可能となります。もちろん単身での戦闘にもドラマは見い出せますが、大掛かりな戦線を立ち上げることで扱えるストーリーの規模は大きく膨らみます

近年はハリウッド映画でも、クライマックスに多数対多数の決戦シーンを設けることが多くなりました。ロード・オブ・ザ・リングスターウォーズマトリックスアベンジャーズ……。こういったブンドドのイメージソースたりうる作品群に近づくには、「並べる」という遊び方に勝るものはありません。

また、さまざまな場面を想定しつつオモチャを並べることで、オモチャ同士は自然と会話を始めてくれます妄想を加速させるのはシチュエーションです。リアクションによって人間性を浮き彫りにするという作劇の定番手法のとおり、シチュエーションを設定してやることでキャラクターたちの行動・言動を想像することがたやすくなります。戦場のあちこちで、キャラクター同士が会話と戦闘を繰り広げている、そしてそれをじぶんが俯瞰視点で見下ろしている……。

まるで「戦争と平和」を書いていたときのトルストイのように、あなたは神のごとき万能感に包まれることでしょう。

 

オモチャを並べることで、たくさんのオモチャを一望できる

オモチャ収集の趣味が長引くと、コレクションの全貌を見通すのが困難になります。棚に綺麗に並べるコレクターであれば別でしょうが、我々のようなブンドド勢はすぐに遊びにアクセスできるよう、てきとうな箱や引き出しに投げ入れていることがほとんど。こうなると、よく遊ぶオモチャを除き、久しく手に取っていないオモチャが下層に埋もれがちです。

そんなときにも、「並べる」という遊び方は役立ちます。多くのオモチャを並べているうちに、自分の持つキャラクターたちの棚卸し・点検ができるのです。

 

「そういえばこんなオモチャを持っていたな」

「コイツは以前退場させたまま登場させていないぞ」

「そうだ。硬直してた戦況に一石投じるのに、コイツを登場させるのは手だぞ」

 

 

というような形で、オモチャの再登場・再利用を計ることもできるでしょう。

 

また、買った時期の異なるオモチャを並べてみることで、そこに思いがけない関係性が生まれる可能性があります。

ゲーム・オブ・スローンズという超有名な洋ドラがありますね。ファンタジー世界を舞台にした群像劇なのですが、この作品の魅力のひとつに、それぞれ個性の強いキャラクター同士が、運命のめぐり合わせによって、思いがけない組み合わせになるという点があります。

 

たとえば、ある勢力にいた人間が、裏切って反対勢力につく。権力闘争に破れた貴族が流浪の身の上に落ち、意外な人間に救われる。ある政権が滅びたことで、有能な将軍が拾いあげられ重用される。陰謀に巻き込まれ父を殺された貴族の娘が、復讐を誓って暗殺教団で修行を積む。……などといった展開が目白押しなのです。

そもそも、複数の勢力が複雑に絡み合ったストーリーの大筋があるなかで、こういった人間の入れ替わりがありますので、視聴者は運命の変転の面白さにとりつかれるわけです。

また、AとBという関係性だけで描かれていた人間像も、キャラクターの組合せがBとCという形になれば、また違った側面が浮き彫りになります。キャラクターの組合せが変わると、そこに新たな関係性が生まれ、人間描写がさらに深みを増していくのです。

 

こういった手法を、組み合わせるオモチャによって採用してみましょう。ふだん一緒に行動させていたキャラクターから離して、別のキャラクターと近づけてみる。誰かに命じられたのか、めぐり合わせなのか、何者かの陰謀に基づくのか……。なんにしても、新たな組み合わせはキャラクター同士の摩擦や衝突を生み、ドラマを加速させてくれるでしょう。

最近うまく自分の言葉で喋ってくれなくなったオモチャを、これまで組み合わせたことのなかった他のオモチャの近くに置いてみましょうキャラクター像が明確にイメージできてさえいれば、そこに新たな会話・やりとりが立ち上がっていくのが見て取れます。

新たな組み合わせは、マンネリ化しつつあったブンドドにも、一筋の光明を与えてくれることでしょう。

 

「並べる」と「手に取る」はコインの裏表である

さて、ここまで「並べる遊び」の楽しさについて語ってきました。

しかし、記事のタイトルにも掲げた「並べる楽しみが8割」という論には、ぼくはシンプルに首肯することはできません。

というのは、並べる楽しさはハンドリングブンドドとコインの裏表にあると思っているからです。並べた後で、ただ眺めて想像を繰り広げるだけでは、ぼくは満足することができません。

どうしても並べたオモチャのうちいくつかを手に取って、戦わせたくなる。

戦わせた後は、また情勢が変わった状態で並べ直したくなる。

「並べる」と「手に取る」を繰り返しながら遊ぶのが、すくなくとも、ぼくには向いているようです。

 

ただ、これまでハンドリングブンドドしか行なってこなかった方々には、ぜひ並べる遊びを試してみていただきたいと思います。

童心に返ってオモチャを並べているうち、思いがけない楽しみやマンネリ打破を迎えることができるかもしれません。